本を紹介する理由

僕がブログを書いていて、ときどき具体的な本の名前を出すのは、やっぱりそれを求めている人に読んで欲しいからです。
「クルマは好きだけど難しい本は読みたくない~~」って人にまで「読め!」って言う気はないのですが、ところが「そこの部分詳しく知りたいんだけど…」という人にとっては、話の根拠となった本を読めないと先に進みません。
クルマは難しいので、難しい話をするときは根拠が大事なので、しっかり根拠の書いてあるものはありがたいですね。

ところで、クルマの物理を勉強し始めた人が行き当たる壁のひとつに「タイヤは太いほうがいいか、細いほうがいいか?」というのがあります。
「よく分かんないから全部試してみる!」というガッツ溢れる人は、実際試してタイムの良かったタイヤを選べばいいだけの話なのですが、どういう原理が働いてそうなるのかを知りたい人にとってはそういうわけにもいきません。

一般に、細いタイヤはグリップ力が足りず、太いタイヤでは食いすぎて最高速に不利である、と言われています。
だからちょうどいいサイズを選びましょうとなるのですが、ここで重要になるのは、摩擦に関するひとつの物理法則です。

 摩擦力F=摩擦係数μ×荷重P (アモントン・クーロンの摩擦法則)

ここで、摩擦係数μはゴムの性質、あるいは路面が乾いているか濡れているかなどによって変わります。
また荷重は、車重あるいは空力あるいは横Gや加減速G、また力のかかる方向などにより、その瞬間の各タイヤに加わっている垂直荷重で変わります。

ところでこの式にはタイヤと地面との接触面積が出てきません。
面積が出てこないということは、タイヤのグリップにはタイヤの太さは関係がないということです。
え!うそ!?関係ないの?
でも実際タイヤを太くしたほうがグリップする気がします。
気がするだけか?

物理法則は、すべて人間の感覚に沿っているとは限りません。
真空中の自由落下の速度が質量に依存しないのと同じようなものです。
では具体例で考えてみましょう。

まず机と消しゴムを用意します。
消しゴムを机にギューっと押し付けると、しっかりグリップしますね。
ここで、消しゴムの上に本10冊を載せます。
大体5kgくらいでしょうか。
このとき、消しゴムだけを動かそうとしても、しっかりグリップしているのでなかなか動きません。

次に、消しゴムを薄っぺらいゴムシートに交換してみましょう。
ゴムシートの大きさは、そうですね、本より少し大きいくらいです。
その上にさっきの本を載せます。
このとき、ゴムシートを引っ張って動かそうとしても、しっかりグリップしているのでなかなか動きません。

ここで、もしも消しゴムとゴムシートの摩擦係数が同じで、その上に載せた本の重さが同じだとしたら、摩擦力は同じになる。
…というのが、F=μPの意味ですね。
消しゴムはゴムシートより接触面積が小さいのに、摩擦力が変わらない。

そんなわけでタイヤのグリップ力がどのように変化するかについて、このようにクーロンの摩擦法則を当てはめれば、タイヤの太さなんてグリップ力には関係ないということになります。

でもでもやっぱり実際にサーキットアタックしてる人は、納得いかないでしょう。
納得いかないときは、納得いくまで考えます。
物理法則の基礎はしっかりと頭に入れつつ、その一方で常に「何か見落としているんじゃないか?」という視点を持つことが大事ですね。

このようなタイヤの太さの問題については、古来より活発な議論がされてきました。
古くは弥生時代、ヤマトタケルが聖剣エクスカリバーを振り回していた頃にまで遡ります。
あれ、ヤマトタケルって弥生時代ですか?
ごめんなさい日本史なんてぜんぶ忘れてしまいました。

で、そんな活発な議論があるわけですが、これは株式会社ブリヂストン「自動車用タイヤの基礎と実際」を読むと一発解決します。
自動車用タイヤには「接触圧依存性」があって、摩擦係数が接触圧によって変化する。
したがってタイヤは太いほうがグリップする。以上です。
簡単ですね(笑)

要点だけ書くと

・タイヤはただのゴムの塊とは違い、スチールベルトなどが使用され空気が充填された複雑な構造材であること
・タイヤの摩擦係数は路面と接する面の圧力に影響され、接触圧が高いほど摩擦係数が小さくなる傾向があること

などの理由により、同じ荷重ならば接触面の圧力が低いほどグリップ力が大きくなることになるので、単位面積あたりの圧力(荷重)を少なくできる「太いタイヤ」のほうがグリップ力が大きくなる、と。
詳しくは株式会社ブリヂストンにお問い合わせ下さい(笑)

3~4年くらい前この本を初めて読んだときは「ちょっと!そんな大事なことは小学校の教科書に書いといてよ!」と思いました。
だってどうしても納得がいかなくて真剣に悩んでたんだもの~!(涙)
小学校時代と言ったら、そうですね、僕はガンダムのプラモデルを買って、うまく組み立てられずに凹んでましたね。
あぁ!接触圧依存性なんて分かるわけがねぇ(笑)

実際にはハイグリップタイヤの場合、熱で溶けてくると表面がべたべたします。
このべたべたは摩擦ではなく粘着という要素を持つので、粘着はガムテープと同じで面積が大きいほど力が強いので、やはりタイヤは太いほうがよいということになりそうです。
今回、摩擦力以外の要素は割愛します。

さてブリヂストンの研究結果を信用するなら、タイヤの太さの問題は、あれやこれやの議論の結果を待たずとも「最初からこれ読んどいてね」で済むわけです。
素人同士であれこれ議論しているのがアホらしくなります。
百聞は一見に如かず、と言いますが、百考が一読に及ばないこともあります。
僕のような素人が何年考えても分からないことを、たった1冊の本が解決することがあるわけですね。
世界的に有名で実績のあるタイヤメーカーが長年に渡り研究してきた成果を、そのごく一部とは言えこうやって一般に公開してくれているのですから、ありがたいことです。

本を読んだり、基礎を学ぶということはそういうことだと思います。
大事なものは既にそこにあって、僕らが手を伸ばしていないだけ。
でも普通に生活していればそれは当たり前のことですね。
興味が出てきて、知りたくなったら、そのときに手を伸ばせばいいんです^^
本棚に(笑)

本に頼るだけじゃなく、自分ひとりの力で、経験や勘を頼りに頑張ろうとすることもまた大事ですね。
新しいアイディアを生むことはもちろん、誰かの業績を理解することさえ、「自分で考える」ということなしには出来ません。
こつこつした地道な努力は、きっといつか実を結びます^^
…まぁ、すごく苦労して導き出した結論が、実は何十年も前から常識だった、なんてこともよくある話ですが(苦笑)

どちらにしても人間の一生は短いので、出来ることには限りがありますから、たくさんの偉い学者さん達が長い年月をかけて積み上げてきた業績は偉大ですね。
ただ、どれほどすごい事実が本に書いてあったとしても、それを「知っていること」がすごいわけではありません。
すごいのはそれを研究してきた人なので、僕は読むだけなので、ぜんぜんすごくありません。
だから「これを発見したのはこの人だよ」とか「きみもこれを読めば同じ知識が得られるよ」という意味で、出典を明らかにすることはすごく大事です。
本の場合でも、ちゃんとした本であれば、参考文献があるときは必ず明記されています。

たくさんの過去の人達の積み重ねで、現在がありますから、ちゃんと敬意を払いたいものですね。
本にはその人の人生の一部が詰まっています。
難しい本を読むのは大変ですけど、でも読むだけでたくさんのことが伝わりますから、それが本というものですから、とってもいいものですよ^^

知識って、そういうものだと思っています。