ストロークの管理

足回りにはとてもたくさんの要素があって、僕もあらゆる全てを知っているわけではありません。
減衰力がどうとか、ブッシュがどうとか、バネの銘柄による違い、プリロード、バンプラバー、スタビ、ストロークによるアライメント変化やコンプライアンスステア、ロールセンタ、もちろん車重バランスでも変わりますし、タイヤ特性やデフ特性まで含めると大変な話になってしまいますね。

でも、とりあえず足回りの話をするときは「ストロークの管理」。
これが最も基本的な事柄のうちのひとつであり、これが出来ていないと他の全てが完璧でも足回りは台無しです。
例えばテニスを上達するのに、サーブの練習やスマッシュの練習も必要かもしれませんが、まずスポーツの基礎として体力がなかったら勝負になりませんね。
何でも基礎が重要です。

話をバネに絞りましょう。
バネはめちゃんこ硬いと乗り心地はめちゃんこ悪くなります、皆さん知ってますね。
ところが柔らかすぎても底突きするので乗り心地は悪くなります。
性能も落ちます。

じゃあどのくらいがちょうど良いのか?というのは、実際にクルマを見てみないと分かりません。
自分のクルマの現状が分からない場合、「多分こうだと思うんだけど…」「きっとこのくらいのはず…」といった適当な予想でしか作業を進められないので、いつまで経っても不満の原因がはっきりしないことになってしまいます。

「先生、わたし、痩せたいんです」
「ではダイエットを始めましょうか」
「半年くらい前から、こういうダイエットをしてるんです」
「そうなんですか。効果はありましたか?」
「よく分かりません」
「何kg痩せましたか?」
「分かりません」
「………。失礼ですが、現在の体重は何kgですか?」
「測ってないので分かりません」

これでは話にならないので、きちんと測って、自分なりの対策をしてから、再び測ってみて、その結果どうなったかを確認します。
なので、まずは「いま自分のクルマの足回りはどういう状態なのか?」をきちんと確認することがとても大事です。
車高調のスペック欄にピストンロッドのストローク量が書いてない、全長も書いてない、という不思議な業界ですので、コイルスプリングの硬さだけで足回りを判断してしまいがちなのが一般的な実情ではないかと思いますが、必要なところをちゃんと押さえて正しくあなたのクルマのストロークの管理をしましょう。

そして自動車のサスペンションというのはとても難しいものの、ストロークの管理自体はそんなに難しくありません。
ただしダンパの構造を知らないといまいちピンと来ない人が多いと思うので、ピンと来ないとイメージが湧かないと思うので、今回はそのへんの具体的な説明をしますね。

ロードスター用リヤダンパの実物写真

こちらは僕が昔使っていたダンパです。
ロードスター用のリヤ側。
構造がシンプルで分かりやすいため、こちらを参考にします。

ダンパ構造を簡略化したイラスト

こちらは写真のものをイラストにして簡略化したものです。
バンプラバーとかマウントブッシュが抜けていますが、まぁ、なんだ、不足を感じた方は脳内で補ってください(笑)

バネとアッパーマウントを省いたダンパのイラストと各部名称

さて、バネやアッパーマウントはいらないので省きます。
ダンパだけにすると、こんな感じになります。
念のため名称を書いておきます。

ダンパ伸縮のgifアニメ

こちらはピストンロッドの上下動をアニメ化したものです。

ダンパをスケルトン化した構造図

もっと分かりやすいように、ダンパをスケルトンにしてみました。
複筒式ダンパなのに構造が複筒式になってないのは大目に見てください。
説明で使うイラストはシンプルが一番!(笑)

ダンパが半分沈んだ状態の図

で、これが半分くらい沈むとこんな感じで、

ダンパがめいっぱい沈んだ状態の図

めいっぱい沈むとこんな感じです。
分かりますよね?話についてこれない人いますか?
ここまでは大丈夫ですよね。
ストロークの管理は難しくないので、ついてきてください。

さて、クルマがでこぼこ路面を走ると、上下にボヨンボヨンしますね。
クルマにはサスペンションがついているからです。
このとき、もしもサスペンションの可動範囲がすごく少なかったとすると、あまりクッションの役割を果たしてくれないので、乗り心地が悪くなってしまいます。
極端な場合は跳ねまくってしまい、コーナリング性能まで悪くなります。

というわけでサスペンションの可動範囲がとても大事なのですが、サスペンションの可動範囲はダンパーがどれだけ上下できるか(どれだけストローク出来るか)によって制限を受けるので、より良く動かすためにダンパーのストロークを管理しましょう、というのが今回のお話です。

ピストンロッドのロッドストローク部分を示した図

ところで、ピストンロッドのうち、ダンパケースから出たり入ったりする部分をグレーで色付けしてみました。
この部分の長さは「ロッドストローク」とか呼ばれます。

この部分が長いとダンパケースも長くなるので、ダンパ全体が長くなり、そういうダンパを使う場合は結果的に車高を落としにくくなります。
でもこの部分が短いと、今度は底突きしやすくなるので、乗り心地の面で不利になります。
ストロークの管理だけで言うなら、車高は落ちなくてもいいので十分な長さを確保したいものです。

「この車高調はストロークを十分に確保してあります」と書いてある商品でも、ロッドストロークの数字は公表されてないものがほとんどです。
買ってから、測ってみたら絶句した、ということがあるので気をつけましょう(苦笑)

話を進めますね。
ダンパを車に取り付けてジャッキから下ろすと、バネと一緒にダンパも縮みます。
分かりますよね、車重がかかるので、クルマの重さで縮むんです。
それがどれくらい縮むかはクルマの重さやバネの硬さによりますが、ここでは分かりやすいようにちょうどロッドストロークの半分だけ縮んだとしましょうか。

車重で半分縮んだ状態のダンパ

縮みストローク部分を緑色で示した図

伸びストロークと縮みストローク

ここで、半分より上の部分を緑色に塗ってみました。
緑色の部分は、「ここからさらに縮むことの出来るストローク」です。
「縮みストローク」とか言います。
例えばここが10cmだったとしたら、ダンパはあと10cmだけ縮むことが出来るってことです。

もしもここが2cmくらいしかなかったら、あと2cmくらいしか縮むことが出来ないことになります。
底突きスペシャルです。ガツン!ガツン!

そして、グレーが残った部分は「ここから伸びることの出来る長さ」です。
「伸びストローク」とか言います。
例えばボヨンボヨンってなってるとき、ボディが上方向に弾んでいる瞬間はダンパが伸びようとするわけですが、伸びストロークが10cmだとすると、ダンパはあと10cmだけ伸びることが出来ることになります。

伸び側の管理も奥が深いのですが、ここではバッサリと割愛することにして、とりあえず縮み側に焦点を当てて話を進めることにします。

縮みストロークとバンプラバーの位置関係を示した図

バンプラバーと縮み側の余裕

さて、仮に縮み側が10cmあったとしても、実際のダンパにはバンプラバーという保護部品がついています。
きっちり10cm使えるわけではありません。

バンプラバー部分を黄色で示した図

バンプラバーの分を、黄色で表すことにしましょう。

しかもバンプラバーは、潰れれば潰れるほど硬くなる、という性質を持ちます。
イメージ出来ますでしょうか、材質がゴムとかウレタンですから、ギューってやると硬くなるわけです。
硬かったらガツン!ガツン!と跳ねちゃいますね。
そういう領域は赤色で表すことにしましょう。

緑・黄・赤で安全域から危険域までを示した図

緑色は安全、黄色は注意、赤色は危険!といった感じですね。
バンプラバーを上手に使える人にとっては、黄色の部分をうまく活用できるかどうかがキーポイントとなるのですが、まだ勉強している最中の方はそういうことまで考えなくて大丈夫です。

ちなみに実際はバンプラバーはいきなり硬くなるわけじゃないので、グラデーションで表したほうがイメージしやすいかもしれません。
「潰れるにしたがってだんだん硬くなる」というイメージです。
いいですよね、わかりますね?

バンプラバーの硬さがグラデーションで変化する様子を示した図

さて、せっかく色付けしておいて何ですが、この状態からもしもバネをダウンサスに交換したとすると、全体的に沈み込んでしまうので(=車高が下がる=ダウンする)、このようなバランスではなくなってしまいます。
伸びストロークが増える代わりに、縮みストロークが減ります。

ダウンサス装着時のストロークバランスの変化を示した図

伸びストローク、つまりグレーの部分が増えましたね。
そして縮みストローク、緑や黄色の部分が減ってしまいました。

そしてバネを純正より硬いものに交換したとすると、全体的に浮き上がります(=車高が上がる)
つまり縮みストロークが増える代わりに、伸びストロークが減ります。

硬いバネ装着時のストロークバランスの変化を示した図

縮みストローク、つまり緑の部分が増えました。
そして伸びストローク、つまりグレーの部分が減りました。

また、バネの硬さが同じでも、「プリロード」をかけると縮みストロークが増えて伸びストロークが減ります。
プリロードについても今回はバッサリと割愛します。

そんなこんなで、例えば緑色の部分が少ないと、それは縮みストロークに余裕がないということなので、小さな段差でもすぐに底突きしてしまったりして、乗り心地サイアク!なんてことになります。
緑色の部分が多ければ多いほど、縮みストロークが長いことになり、段差などで大きな力が加わったときでも底突きまでにたっぷり余裕があるので、底突きしにくくなります。
ただし縮みストロークを増やすということは、そのぶん伸びストロークを減らすということです。
伸びストローク(グレーの部分)が短くなりすぎてしまうと、「伸びきり」というのが起こるので、これまた乗り心地は悪くなるのですが…。
まぁ、何事もバランスが大事ってことです。

縮みストロークの余裕と底突きのしやすさを示した図

ともかく、ロッドストロークが何cmか、バンプラバーの長さが何cmか、というのを測定することで、まずそのダンパが持つポテンシャルが分かります。
それから、どんなバネを使うか(あるいはどれくらいプリロードをかけるか)によって、伸び/縮みのバランスを調節します。
全体の長さが決まっている以上は、バランスをやりくりすることしか出来ません。

めちゃんこ硬いバネを使うと縮みストロークが増えて底突きしにくくなりますが、もともとのバネが硬いと、例え底突きしていなくてもガツンガツン!という乗り心地になってしまいます。
かと言って柔らかすぎるバネを使うと、縮みストロークが足りず、すぐに底突きしてしまうので、やはりガツンガツン!という乗り心地になります。
それでは一体どれくらいがちょうどいいのかというと、各部寸法を測ってから、荷重計算をしたうえで、ギリギリを満たすようなバネレートを算出すれば良い、ということになりますから、とにもかくにも計測が必要ということになります。
計測の重要性が分かってもらえたでしょうか。

そして、自分のクルマの足回りは、果たして縮みストロークがどれくらいあるのか?
そして伸びストロークはどれくらいなのか?
バンプラバーまでの余裕はどれくらい?
簡単に底突きしてしまうのか、そうでないのか?
それが気になり出したら、今回のお話がお役に立てたということです。
というか、気にして下さい(笑)

ロッドストローク部分のみで色分けを示した図

おさらい

さて、おさらいです。
ストロークを管理するというのがどういうことか分かると、もうダンパのイラストは必要ないと思うので、ロッドのストローク部分のみで説明します。
これだけ見て分かるようになってください。
これだけ見てイメージが湧くようになれば、もうほとんどストロークの管理は出来たようなものです。

グレーの部分は、車重で沈み込んだ領域(=伸びストローク)。
緑色の部分は、縮みストロークのうち、バンプラバーに当たらない領域。
黄色の部分は、縮みストロークのうち、バンプラバーに当たってはいるが、まだそれほど硬くない領域。
赤色の部分は、縮みストロークのうち、バンプラバーが縮みきってしまい、めちゃんこ硬くなってガツン!ガツン!ってなる領域です。

ダウンサス装着による車高低下とストローク変化を示した図

バネをダウンサスに交換すると、車重で沈み込む量が増えるので車高が下がります。
ただしそれはつまり、矢印で示した長さ=グレーの部分が増えることを意味しているので、結果として縮みストロークが減ります。
したがって底突きしやすくなります。

硬いバネ装着による車高上昇とストローク変化を示した図

バネを硬くすると、車重で沈み込む量が減るので車高が上がります。
それは矢印で示した長さ=グレーの部分が減ることを意味しているので、結果として伸びストロークが減ります。
したがって伸びきりが起きやすくなります。

ロッドストロークが短い場合のストローク不足を示した図

そのうえさらに、ロッドストローク自体が短かったりすると、全体的なストロークが減ってしまうので、縮みストロークも伸びストロークも不足しがちになります。
短くて余裕のない中で、なんとかバランスを取れるようにやりくりしなければいけませんが、やはり短すぎる場合はやりくりにも限界があるでしょう。
目的に応じて、最低限のロッドストロークは確保したいですね。

というわけで、ストロークの管理はこういうふうにします、というお話でした。
動いているところを想像しながら、イメージを膨らましてくださいね。

ストローク管理のまとめ図

ダンパ伸縮のgifアニメ

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(おまけ)

ところでロッドストロークが全部で何mmで、バネにかかる荷重がどれくらいかということが分かると、伸び/縮みのバランスを計算することが出来ます。
電卓使えれば誰でも出来ます。
バネにかかる荷重は、車検証の軸重を利用した計算でも大体の値を求めることが出来ますが、ロッドに結束バンドを巻いて実測することも出来ます。

ロッドに結束バンドを巻いて荷重を測定する様子

まずクルマをジャッキアップした状態で、ロッドに結束バンドを巻きつけ、そのタイラップをロッドの一番根元(ダンパケース側)まで移動させます。
その後クルマをジャッキから下ろして1Gの車重をかけたのち、再びジャッキアップすると、結束バンドがさっきの位置から移動しているので、いったい何cm移動したのかを定規などで測定します。
このときの長さが伸びストローク(=ダンパが縮んだ長さ=ブログ本文中でいうところのグレーの部分)になります。

例えばこの長さが6cmだったとして、このクルマに50 N/mmのバネが使われていたとすると、「1mm縮めるのに50 N必要なバネを60mmも縮めた」ということになりますから、計算上、このバネには50×60=3000 Nの荷重がかかったことになります。
そういう感じで「ここが何mmということは、ここには何Nの荷重がかかっていて…」というふうに考えていきます。

ところで同じ底突きするにしても、長くて弾力のあるバンプラバーと、短くてカチコチのバンプラバーでは、長くて弾力のあるほうが衝撃をふんわりと受け止めてくれます。
長くて弾力のあるバンプラバーを使おうと思ったら、当然そのぶんのスペースが必要になります。
長いわけですから。
つまりそのぶんの縮みストロークが追加で必要になるので、そういったことも考えながら、どんなバネを使おうかな、と考えていくことになります。
つまりバネというのは基本的に計算結果を参考にしながら選ぶものです。
(もちろん、上級者の場合はここで紹介した以外の要素も含めて考えますが、初心者の方はとりあえずこのくらいのところを理解できるように頑張って下さいね)

ストロークを管理するということは、大体、こういう感じの作業をするということです。
計算自体は、四則演算が出来れば難しいことはありません。
慣れないうちは少しややこしく感じるかもしれませんが、特別難しいことをやるわけではありません。
試しに何度か自分で電卓叩いてみて、少し慣れればラクショーですので、興味ある方はぜひぜひ!